国の安全確保やエネルギー政策からそもそも無制限にオープンであることになじまない分野がある。空港や電気事業もそのひとつだ。諸外国を眺めても空港や原子力、電気事業を無制限にオープンにする国は少ない。たとえ民営化しても、株の多くを政府や公的機関が保有し外資規制をするのが一般だ。今回政府は、TCIファンド が電源開発株式会社(Jパワー)の株式を20%まで取得しようとした届出について、外為法に基づく中止勧告を出した。当然のことだが、関係者の勇気と決断には敬意を表する。
Jパワーは送電設備や原子力発電所など、わが国の電力の安定供給をになう企業であり、代替が不可能な独占的企業である。そこへTCIのような(短期)収益のみを重視する外国ファンドに一定額以上直接投資させるのは危険である。 特に原子力発電はわが国総電力の3分の1を占める基幹電源であり、現在Jパワーはわが国核燃料サイクルの要となる大間原子力発電所を計画している。そこでのMOX燃料(非核保有国で使用済燃料を再処理してプルトニウムを抽出しMOX燃料を製造できるのはわが国だけ)よりも輸入ウラン燃料の利用の方が圧倒的に低コストであるから、外資にはこのような長期の視点での設備投資への理解は期待しがたい。
今回の中止勧告について、「資本鎖国」というイメージ(朝日新聞)とか「日本の閉鎖性に懸念」(日経新聞)と批判する向きもあるが、OECDでも認められた歴とした国際的共通ルールに則ったものであり、世界に恥じることはないし、そこまで「オープン」にこだわる理由はない。
空港の外資規制への反対も、2006年3月に出された政府方針「2010年に対日直接投資残高をGDP比で倍増となる5%程度とする」に逆行し日本の市場が閉鎖的だというメッセージになるという言い方がされた。
しかし、投資は促進されたが安全は脅かされたというのでは本末転倒である。対日直接投資を促進するのはそれが日本の国益にかなうからであるはずで、国益を犠牲にしてまで対日投資を倍増させなければならない理由などどこにもない。もともと期限、数値を決めて対日投資を促進する意味もない。日本は外国投資がなければインフラ整備できないような発展途上国ではない。1500兆円ともいわれる国内個人金融資産が国内投資にまわるような努力と工夫をすべきである。外資が投資しその圧力がなければ企業の経営合理化が進まないというのもおかしな議論である。
また、外資が悪くて国内資本がよいというのは差別だというが、国益を享受する国内資本(裏返せば国が滅びれば国内資本も滅びる)の方が利益だけでなく国益のことを考えて行動するだろうし、悪意の国内資本からは外資規制とは違った方法で防御する必要がある。悪意の国内資本に効果がないから外資規制は意味が無いというのは詭弁であり論理の飛躍である。現に外資は国内資本に比べて犯罪捜査もしにくいし、それを外国に依存できると考えるのは平和ボケだ。
この外資規制の問題は、そもそも完全民営化が正しかったのかという反省に立って議論しなければならない。民営化信仰に近い考えがまかり通っているが、民営化は、経営効率化、財政健全化のために有効だが、かつての八幡製鉄所や富岡製糸場のような、そもそも民営であるべき「工場」の民営化と国の安全保障に直結する空港やエネルギー基幹設備である電気事業の民営化を同列に考えてはならない。民営化するにしても、資本の論理だけではない長期的な国益その他の観点が必要な事業については、政府が一定数の株を保有し続けるなど別の考慮があるべきで、要するに外資規制は完全民営化というボタンの掛け違いの次善の策なのである。